詐欺の証拠とは
詐欺の証拠と言っても方程式のように同じ証拠を集めれば良いというわけではなく、手口によってポイントとなるものは異なります。
ですから、ここでは、詐欺の証拠として、代表的な考え方を紹介します。
前提崩し
詐欺は、虚偽の理由や相手が欺網する理由で金銭を交付させる事ですから、必ず、お金などを差し出させるための理由があります。
例えば、結婚詐欺なら、結婚を前提とした事から派生した親の病気や借金が虚偽の場合で、それらを理由に金銭を騙し取るといった一連の因果関係が立証できるものが詐欺の証拠となるのです。
また、投資の詐欺では、投資自体が行われていない事を立証する事で、詐欺の立証となります。
こうした、お金を出させる理由を崩す事を「前提崩し」と言います。主に詐欺は内心の立証が必要といわれますが、前提が全くの嘘であったり、架空のものであれば、そもそも実現不能な状態で金銭を出させていますから、これを騙し取ったと判断することは妥当性があると考えられます。
類似するが判断が微妙になったり、詐欺といわれないものに借金の返済などがあります。借金の場合、そもそもの原資が無くお金を借り入れるわけで、その理由は明確でない場合が多く、また証拠として残りづらいため、加害側が「お金は返すつもりだが、お金が今は無い。」と言われてしまうと、「返す気がある」=「騙そうと思って借りてはいない」と判断されてしまいます。
詐欺師は詐欺の証拠を残さないようにする
詐欺師は詐欺の証拠を残さないようにしています。例えば、投資詐欺の多くでは借用書や運用受託証明書などはありますが、非常に抽象的です。本来は運用証明書やどのような投資によって金銭を運用するのかなどを投資(主にファンド)の場合は、示さなければなりません。こうした運用証明書などが詐欺であったかどうかの指標になりますが、ほとんどの詐欺師はこうした書証は発行しません。
交際クラブ詐欺の場合でも、電話や直接のやり取りが多く、契約書などを交わさない事が多いのが事実ですから、証拠が残りづらい方式を取っているケースが多いのです。
振込証明が証拠だ!が通用しない!のはなぜか?
振込みでお金を支払った場合、銀行の振込証明書などが残ります。また、口座から送金した場合でも、後から取引金融機関から証明書をもらう事も出来ます。
こうした証明は、確かに相手にお金を振り込んだことを立証できますが、その理由や支払ったお金の性質によって、取扱が変わります。
例えば、出資金である場合は、相手の会社が倒産したら、戻ってこないのは当然の性質の金銭です。約定などによって他の性質の理由はつけることは出来ますが、約定がきちんと残っていなければ、一般的な出身という性質になってしまいます。
また、贈与だ!と詐欺師側が主張した場合、贈与ではない証拠を有していなければ、贈与として(くれてやったものとして)取り扱われてしまう事があります。
つまり、振込証明には、その金銭の理由が示されていないので、詐欺師側はいくらでも別の理由をつけることが出来るのです。
録音は証拠になる!
詐欺師は証拠構成を理解している事が多いといえます。例えば、3大的な証拠といえば、書面などの「書証」、物などの「物証」、証言などの「人証」ですが、詐欺師はこうした証拠が残りづらいように工夫しています。
もしも、詐欺で騙されたと思っているあなたが、上記の3大的な証拠を知らないとすれば、すでに詐欺師より知識が不足していますから、戦うには少々分が悪いでしょう。
しかし、さすがの詐欺師も、あれも出さない、これも出さないでは人を騙せませんから、口ではうまい事を言うものです。つまり、何も出さない詐欺への証拠収集には、録音が欠かせません。
こうした会話を録音しておき、反訳をすれば、それが書証相当と考えられたり、証拠として採用されます。証拠として採用するか否かは裁判所の裁量の問題もありますから、必ずしも絶対証拠になるとはいえませんが、何もない状態よりは、ずいぶん立証が楽になっていきます。
ちなみに、録音は最高裁判決で証拠として認められて以来、当事者録音といって、一方がもう一方に黙って録音したとしても、盗聴とはならず、立派な証拠収集と考えられます。(特に詐欺の場合)
今後、判例などによって違った解釈も出てくるとは思いますが、平成21年9月現在で、これ以外の解釈はありません。
全ての資料をできる限り収集する
詐欺には色々な種類がありますから、何集めれば最も効果的かという事は、それぞれのケースによってということになりますから、できる限りの証拠を集める事をここではおすすめします。
例えば、パンフレットやホームページの全て、メールのやり取り、契約書類や各種契約のための資料、新聞の切抜きを持ってきたということでも、それをコピーしたり、写真を取れば証拠にはなります。
つまり、詐欺側が出す全てのものを証拠として収集したり、保全します。
こうして集められた証拠を、一つ一つ吟味し、詐欺でいくのか、契約不履行で金銭補償をさせていくのかの意思決定をします。こうした決定は、できれば、専門家に相談して決めていくことが最も望ましいと思います。
詐欺は一番適用しやすく、一番立証する事が難しい問題
詐欺というのは、もっとも適用しやすいといわれています。あなたが騙されたと思った時、どのようにしていいのかわからず、専門家に相談すると、専門家も悩みます。それは、適切な資料が不足していたり、証拠としての構成が不足しているからです。
ただ、あなたの話を聞けば、「きっと騙されたんだろうな」と思いますから、他法を考察せず、「きっと詐欺ですね。」と答えるのです。
しかし、詐欺は最も立証が困難であると言われていますから、立証していくのは非常に大変です。
もしも、あなたが詐欺の被害を主張して、それを立証できない場合、例えばそれが裁判だとすると、証明責任を果たせない事になりますから、それは「棄却」を意味します。
簡単に言えば、証明できなければ、敗訴してしまうのです。
ここで言える事は、証拠となるものは、詐欺を解決する上で、その勝敗を決め得る最も重要なものであるということです。
証明責任は、一般的に問題を提起した側にあります。詐欺に関する訴訟の場合、詐欺の被害を受けた側が、問題と提起する側(原告)となりますから、証明をする責任は、被害を受けた側にあります。
これを証明責任といいます。(立証責任とも言います。)
ですから、詐欺の加害側は一部の例外を除いては、一切立証する必要がないのです。
ですから、言い争いのように、「詐欺の事実は詐欺師が最も知っているのだから、詐欺師に立証させろ!」という道理は一切通用しないのです。
ちなみに、あなたの意見としての「陳述書」も立派な証拠になりますから、こうした文面にも詳細なチェックが必要です。